事件シリーズ

紫骸城事件上遠野浩平

 ファンタジー世界におけるミステリーというものは、今俺たちが生きている世界とは全く違う法則によって成り立っているが故に、謂わば『何でもあり』の概念である。日本で最も有名なファンタジーは恐らくドラゴンクエストだが、あの世界で密室殺人があったところで多分犯人がアバカムなり最後の鍵なりルーラなりを用いて部屋に侵入して殺害したというだけの話だろう。まあゲームとしてのドラゴンクエストでは部屋の鍵をかける方法は存在していないので密室にすらなりえないのではないかという話になるわけだが。
 前作殺竜事件に続いての本作では前回よりもミステリー色がやや強くなっている。とはいえその仕掛け自体は似たようなもので、謎を解くための資料は最初期から提示されているし謎が解明された時には『ああなるほど』と思えるのだが、此方の世界においては絶対にありえないと断言できる事件であることは間違いない。なにせ未だこちら側では魔術が形態化された様子は無いし300年ほど前に世紀の大魔術士が世界を思うがままに蹂躙した過去もないから。
 だからどうしたというわけでもなく、多くの上遠野ファンが求めているのはミステリーではなく『何を言っているのかよくわからないような発言の応酬』だろうし、実際に俺もそうなのだからこれがミステリーとして成立しているしていないとかレベルが高い低いとか言うことはどうでもいい。問題は俺が楽しめたかどうかという点であり、殺竜事件ほどではないにせよ面白いのは確かなので満足しているのである。


海賊島事件上遠野浩平

 世界の裏側の全てを支配しているのに殆ど誰もその姿を見たことがない海賊の頭領。裏側に通じるということは表側にも通じているということである。何故ならこの世の何者も表裏一体であるから。
 世界の片隅の小さな国で起こった前代未聞の事件の波及が世界、海賊、そしてあの3人にも及び、そしてどんどんと状況は進んでいく。本作でも仮面の戦地調停士はその口先と知性を持って摩訶不思議な謎を当たり前の自称として解明し、世界最強の剣士は己が剣で強敵を撃退し、最強のギャンブラー(というと本人に怒られそうだが)は大国を相手に究極の賭けを打つ。
 前作に比べると殺竜の3人が前面に出ているうえに、海賊の頭領の過去から現在に至る全てが描かれている本作の読み応えは大したもの。今後如何いう方向に世界が動いていくか、なんてことを想像することなんて出来ないが、絶対にただではすまないということだけは確信できるので先を待つ身としては幸せである。